BOD
BOD負荷について
汚濁の指標であるBODについて、その起源はイギリスで排出源から汚水が放流されて海に出るまで最長5日間かかると言うことから、BODの測定を20℃で5日間とされ、又5日間で概ね70%の有機物が分解され、この時点での値が安定し、しかも再現性の良い事がその理由であると考えられています。尚国によってはBODの測定を7日や10日、14日で測定する国もあるようです。
当然ながら、廃水処理施設の設計においても「BOD5日間=負荷量」とされており、SSについてはあくまでも浮遊物質としての認識しか成されておらず、有機性のSSが徐々に溶けて(溶解性)BODに変換することは考慮されずに今日に至っています。これは産業廃水の処理施設が公共下水道の終末処理施設をモデルに作られており、公共下水道の終末処理施設に流入する汚水のSSは産業廃水に比して無機質が多く、沈殿地で沈降を促進することがあってもBOD負荷となることは少ない為と考えられています。
河川や湖沼のような自然環境水の評価はBOD5日間で概ね100%の酸素消費となるので何等問題ないのですが、産業廃水については後述するように活性汚泥と呼称される微生物にかかる負荷(栄養源)がBOD5日間の値を遙かに超えるのでトラブルが絶えないのが実情であります。
又、廃水処理施設の運転管理についてもDO(溶存酸素)が指標として多用されていますがDOは必ずしも活性汚泥に利用され尽くした後の余った余存酸素とは限らないので、顕微鏡観察や酸素利用速度での見極めが肝要であり、これらのトラブルを解決する一助になれば幸いです。
BOD20日の基本的な考え方
我々は工場から排出される汚水のBOD5日間を虚実負荷と呼び、BOD20日間を実負荷と呼ぶ事に致します。図1において
汚濁負荷としてBOD等が曝気槽に流入し、空気と共に攪拌されてBODが酸化され、その後沈殿槽に移流して生物凝集によりフロックが大きく生成するが、この時にSSも生物細胞と共に凝集します。生成したフロックは沈降して返送汚泥として曝気槽にもどり、このサイクルを繰り返して処理が進む訳で有ります。曝気槽には原水のBODと返送汚泥に含まれるSSが流入します。SS中に含まれる溶解性SSは徐々に溶けて栄養源(BOD)に変わり、つまりBOD5日間の負荷と溶解性SSの負荷の合計が活性汚泥に負荷としてかかる訳であります。汚水と言う水そのものは滞留時間を越えて留まる事はありませんが、微生物と共に吸着してフロックの一部になったSSはこの限りではなく、曝気槽の滞留時間が1日以下であっても無関係にBODの予備軍として滞留して負荷が加算されるのであります。従いまして、BOD5日は見かけの虚実負荷であり、当該施設のSRTの分だけプラスアルファの負荷がかかるのですが、此れでは、施設ごとのバラツキが大きく共通性が無い、又あまり長いとBODの測定上の問題が生じるのでBOD20日が現実的でありBOD20日を実負荷としています。
実際に微生物にかかる負荷(栄養源)の調査と実例
事例−1
BOD5日では 3,200 mg/ℓでありますが、BOD20日間では6,600 mg/ℓに成っていま。概ね2倍の負荷となりますが、この要因は5日間では溶解しないSSが20日間では溶解して微生物の栄養源となったものと推定出来ます。225 mg/ℓのSS等は3,400 mg/ℓのBODに置換したと考えられます。
尚、SS以外のノルマルヘキサン等の物質も酸素消費にかかわっているのでSS等としましたが、酸素消費の多くが溶解性SSであると考えられることから、これらも含むものとし、硝酸化に伴う酸素消費も廃水処理施設においては必要酸素量であるからこれも含むものとします。
事例−2
BOD5日では 6,600 mg/ℓでありますが、BOD20日間では25,100 mg/ℓに成っています。概ね3.8倍の負荷となり、2,980 mg/ℓのSS等は18,500 g/ℓのBODに置換し、概ね6.2倍であります。
実例−3
BOD5日では 1,400 mg/ℓでありますが、BOD20日間では2,510 mg/ℓに成っています。概ね1.8倍の負荷となり、280 mg/ℓのSS等は1,110 mg/ℓのBODに置換し、概ね4倍であります。酸素消費のグラフに於いてD5日からD10日まで酸素消費が減少していますが、これは消毒剤や難分解物質の妨害による活性汚泥の馴養期間であると考えています。
実例−4
BOD5日では 630 mg/ℓでありますが、BOD20日間では1,650 mg/ℓに成ります。概ね2.6倍の負荷となります。110 mg/ℓのSS等は1,020 mg/ℓのBODに置換し、概ね8.9倍であります。
当該施設は前記の同工場でありますが、過負荷で粘性バルキングと放線菌による発泡が著しい処理障害でありましたが、流量調整槽の曝気を停止し、SSを沈降させ油脂分を浮上させて中間水を処理することにより34%の負荷をカットして処理障害を回避しています。又前処理でSSを除去すると残存したSSのBODへの換算値が大きくなるのが特徴的であります。
実例−5
(原水)
BOD5日では 1,930 mg/ℓでありますが、BOD20日間では3,400 mg/ℓに成っています。概ね1.8倍の負荷となる、710 mg/ℓのSS等は1,470 mg/ℓのBODに置換し、概ね2倍であります。
(加圧処理水)
BOD5日では 1,200 mg/ℓでありますが、BOD20日間では2,260 mg/ℓに成っています。概ね1.9倍の負荷となります。70 mg/ℓのSS等は1,060 mg/ℓのBODに置換し、概ね15倍であります。
加圧浮上処理でSSを除去すると残存したSSのBODへの換算値が大きくなりますが、これは比較的大きいSSは加圧浮上処理で除去されやすいが、溶解しやすい微細なSSは加圧浮上処理で除去されにくい為と考えられます。
実例−6
(原水)
BOD5日では 1,470 mg/ℓでありますが、BOD20日間では2,240 mg/ℓに成っています。概ね1.5倍の負荷となります。585 mg/ℓのSS等は770 mg/ℓのBODに置換し、概ね1.3倍です。
(加圧処理水)
BOD5日では 990 mg/ℓでありますが、BOD20日間では1,600 mg/ℓに成ります。概ね1.6倍の負荷となり、82 mg/ℓのSS等は610 mg/ℓのBODに置換し、概ね7倍に成ります。
実例−7
(原水)
BOD5日では 2,990 mg/ℓでありますが、BOD20日間では5,810 mg/ℓに成ります。概ね1.9倍の負荷となり、1,180 mg/ℓのSS等は2,820 mg/ℓのBODに置換し、概ね2.4倍であります。
(加圧処理水)
BOD5日では 2,600 mg/ℓでありますが、BOD20日間では5,270 mg/ℓに成ります。概ね2倍の負荷となり、171 mg/ℓのSS等は2,670 mg/ℓのBODに置換し、概ね15.6倍であります。
(運転状況)
当該施設の処理能力は、100kg・BOD/日であります。廃水量が40m³/日であります。BOD5日の負荷で計算すると、2,600 mg/ℓ×40m³/日×10-3=104 kg・BOD/日でありますが、処理能力の限界であります。実際の負荷(BOD20日)で計算致しますと、5,270 mg/ℓ×40m³/日×10-3=211 kg・BOD/日でありますので、処理不能である事が判明致します。現実に処理出来ずに曝気槽の増設を計画中です。実状と分析数値が一致している事が証明出来ます。
実例−8
(比較用メタノール)
BOD5日で 918,000 mg/ℓ、BOD20日間で1,065,900 mg/ℓ、この差は測定誤差レベルと考えられます。河川や湖沼の自然環境水も概ね同様であります。
設計上の問題点のまとめ
このように曝気槽と言う生物酸化処理装置にかかる負荷はBOD5日ではなくBOD20日と考えるのが自然であり、我々の数十年にわたる活性汚泥の運転管理及びコンサルティングの経験を通して得られた知見であります。